ニューヨーク発の人気ブランド Victoria Keen のウェアは、すべてがハンドメイドの一点もの。その偶然が生み出した色彩とパターンには、大量生産されたものにはない息づかいや個性が感じられます。2009年9月に来日したデザイナーのヴィクトリアさんに、自分らしいスタイルについてお話を聞きました。2016年8月、最新のデザインと近況について追加取材しました。

―何が描かれているのかわかりそうでわからない、印象的なテキスタイルですね。どこか東洋的な雰囲気もありますが、インスピレーションの源は何ですか?

人間の存在、ヨガ、自然などからインスピレーションを得ています。15歳ぐらいの頃から絵を描いていたのですが、私は絵の素材としていつも自然のものを選んでいました。鳥や花や、なぜか自然のものに強くひかれるのです。

また、東洋的なものを意識するきっかけになったのは、MOMA(ニューヨーク近代美術館)で日本の布の展示を見たことですね。絞り染めや金銀を織り込んだ布など、伝統的な技能と新しいセンスが融合されたものがたくさん展示してあって、すばらしかった。

私にとってデザインはイマジネーションです。何かに美しさを見出したとき、その美しさをウェアというかたちに写し取るのです。たとえば、自然界の曲線美をビルの外観としてデザインするようにね。

― ヨガの練習からはどんなふうにデザインが生まれますか?

ヨガの練習もイマジネーションを使いますよね。体のかたい部分を伸ばすときはそこに呼吸を送るようにするし、目に見えない体の中を想像しながら練習します。そのイマジネーションが私を行ったことのない国やイメージの世界に連れて行ってくれるのです。

それから、自然界のものを真似たポーズもインスピレーションを与えてくれます。たとえば、ハトのポーズって一体どこがハトなんだろうと思うけれど(笑)、それはハトの形をそっくりそのままなぞったわけではないんですよね。

ヨガを練習していると、「あ、わかった!」と何を表現しているかがわかる瞬間があります。私はそういう瞬間が大好き。そこで見出したものをデザインしています。

― ウェアにこめられたメッセージを着る人に理解してほしいと思いますか?

そういう話を聞くのは楽しいと思いますが、すべてを知らなくても、何かを感じてもらえればそれでいい。フィーリングだけでもいいんです。私にとってウェアは作品を描くカンバスですから。私が何かを感じてデザインする。誰かがそれを着て何かを感じる。そこで初めて私の作品が完成するし、その一連の流れもアートだと思います。

― 着る人にこうなってほしいという願いはありますか?

私がデザインしたもので前向きなエネルギーを届けたいし、もっと着る人に「自分がきれいだ」と感じてもらいたいですね。心地よいものを着れば、きっとそう感じられると思います。

結局、服を着るということは自分の表現方法のひとつなので、自分の好きなものを大切にしてほしい。

今は大好きな私のカーリーヘアも、若い頃は大嫌いでした。他の人と同じようになりたくて一所懸命にストレートヘアにしようとしていたんです。「誰も見ないで!」ってね(笑)。でも、あるとき「私はカーリーヘアなんだ」って納得したら、自分が好きになった。誰かの真似をすることでなく、人それぞれの違いがその人を美しくさせると気づきました。

自分が人と違うところを好きになれたら、人を妬んだり羨んだりすることはなくなるんじゃないかな。それはヨガでいう「受け入れる」ことと同じですよね。

人生で大きな変化があった2016年 につづく

写真 七戸 綾子/取材・文 古金谷 あゆみ/「スタジオ・ヨギーのある生活」vol.12より